STAPLE HOUSE KOGASAKA

クリーク・アンド・リバー社(C&R社)建築グループが展開する「CREATIVE RESIDENCE®」シリーズ。貸し手・住み手・つくり手の3者にメリットをもたらす賃貸住宅の実現をプロデュースしている。
この秋、シリーズ第3弾として屋内ガレージ付き戸建賃貸住宅「STAPLEHOUSE® KOGASAKA」が、東京・町田市に竣工。シンプルな木製フレームを基本構造に採用し、建築コスト圧縮と工期短縮を実現、オーナーの投資資金の早期回収を目指す。延床面積100㎡超の空間の随所に〝DIY〞の要素を盛り込み、住み手には、ライフスタイルに応じた自由な使い方を提案。
今回は、本物件を設計した建築家、Kaデザイン代表の山本健太郎氏と、C&R社建築グループ・プロデュース担当の鈴木謙一氏に、背景や設計のポイント、成果について聞いた。

ライフスタイルに応じた〝DIY〞で、住み方を変える

本物件のロケーションは、JR横浜線・小田急小田原線「町田駅」から徒歩19分のバス通り沿い。「STAPLE」とは、ホチキスの針のこと。その名のとおり、ボックス形状の木造2階の戸建てが3棟連なっている。1棟の延床面積は約100㎡だが、間取りは1LDK。この大空間には、住む人がライフスタイルに応じて自由にアレンジできるよう、数々の特徴がある。

まずは1階エントランス部分、25・3㎡の〝土間〞。屋内ガレージとして、大型のバン車両が入る広さを確保。背後の居住空間との間にはポリカーボネートの引き戸が設けられているので、排気ガスが入り込む心配は不要である。例えばサーフィンやスノーボードが趣味の人はボードの整備スペースにしてもいいし、子供の遊び場や、小さなショップとして活用することも可能だ。

この土間から小上がりで接続するリビングダイニングは、広々とした吹き抜けのワンフロア。吹き抜けの一部は、ネットが張られた〝ハンモックスペース〞。ここに寝転がった読書時間は最高に気持ちよさそうだ。子供のいるファミリーには、家の中にフィールドアスレチックがある感覚だろうか。

2階のスペースは、32・3㎡のワンフロアで、そのまま広々と使ってもいいし、間仕切りや家具、カーテンなどを活用して空間を分けて家族個々の空間としてもいい。1、2階の壁面にはクギやネジで穴を開けても目立たないOSB合板を多用して、棚をつけるなり塗装するなり、自由な〝DIY〞ができるようになっている。

「住まいを借りる際、今現在の条件で借りようとする人がほとんどです。5年後、10年後の自分や家族の状況の変化を見越して、という人はほとんどいないでしょう。この家の設計には、そうした経年変化に応じて、最適な間取りや空間へのアレンジを柔軟に楽しみながら長く住んでほしいという思いを込めています」

と山本氏は言う。


「I型ジョイスト」採用の設計で、施主の要望に応える

本物件発想の原点は、2016年春、山本氏が「I型ジョイスト」という複合部材を使った建物を見学したことにある。I型ジョイストは無垢材よりも強度や精度が高く、ロングスパンの構造材として使えることが知られている。

「I型ジョイストのような構造材は、普通は隠すので目にすることは滅多にないのですが、見学した建物は建て方直後でそのまま見えている状態でした。そして、空からそこにいい具合に光が落ちて、非常に美しかった。自分もI型ジョイストを活用した建物を設計してみたいと思ったのです」

山本氏はさっそくC&R社建築グループに相談を持ちかける。山本氏は同グループの〝登録建築士〞である。

施主のニーズと登録建築士のアイデアをマッチングする同グループに提案することで、イメージしていた建物を設計するチャンスを得ようと考えたのだ。山本氏からの提案を受けた同グループ・プロデュース担当の鈴木氏は、I型ジョイストを使った当該物件を見学に行き、実現可能性を感じたという。

「ある施主のニーズに応えられる提案ができるのではないか、とひらめいたのです」(鈴木氏)。

ちょうどその頃、鈴木氏は町田市高ヶ坂エリアに土地を保有するS氏から、土地の有効活用のアイデアを求められていた。

当初S氏は、相続税対策のため、土地の一部売却を検討していたそうだ。それに対し、鈴木氏は、できれば良質な賃貸住宅を建て、その利回りを相続税に充当する策を講じたほうが、オーナーのためにも、地域のためにもなるという提案をしていたのだ。道路に面した土地を手放してしまうと、チェーン店ができ、どこにでもある画一的なまちの景色になってしまう。かといって賃貸アパート経営は飽和状態で、うまくいかないことも多い。いずれにしても、土地オーナーが代替わりしていくなかで、まちとしての価値が高まるような土地の有効活用をすることが大切なのは間違いない。

「まち自体の代替わりをうまく進めないと、例えば地域の行事を受け継ぐ人がいなくなるなど、地域がどんどん壊れていってしまう。良質な賃貸住宅を建てれば、若い世代が戻ってくることも期待できます。とはいえ、高ヶ坂のその土地は、最寄り駅から徒歩19分という不利なロケーションで、どういったソリューションがあるか思案中でした。そんなタイミングで、山本さんからの提案があったのです」(鈴木氏)

また鈴木氏は、山本氏が横浜市のあざみ野で手がけた屋内ガレージ付きテラスハウスを同時に想起した。その物件は、駅から徒歩20分のロケーションにもかかわらず、120㎡ほどで20・5万円という家賃。しかも竣工以来14年間、空室なし、キャンセル待ちが出るほどの人気を得ていた。その要因の一つが、屋内ガレージだったのだ。別途駐車場を借りる必要がなく、外出の際はすぐに車に乗ることができる。車好きな人が願うライフスタイルとして、最適な住空間といえる。

「山本さんとI型ジョイストの物件を見学に行ったその現場で、これを高ヶ坂のオーナーに提案してみましょうと、話し合ったのです。ここから一気にSTAPLE HOUSEのプロジェクトが進んでいきました」(鈴木氏)


様々な意見が集まるプロデュース機能のメリットを存分に活用

高ヶ坂エリアにはあざみ野のような屋内ガレージ付きの物件はなかった。周辺の家賃相場から、閑静な住宅街であるあざみ野のような賃料の設定は難しいと考え、できるだけコストダウンを目指すことに。それに加え、I型ジョイストを活用するとともに、住む人が長く暮らせる時間軸をかけ合わせた解として導き出したのが「自由に使える空間」というコンセプトだ。このコンセプトに従い、仲介会社、施工会社、建築資材メーカー、家電メーカーなどにスケールメリットによるコストダウンの協力を呼びかけ、賛同してくれた各社を巻き込んでいったという。

「2022年に生産緑地の限定が解除され、首都圏などでは固定資産税負担のために宅地に転換する土地オーナーが続出するはず。そこで、『STAPLE HOUSE』を3年間で30プロジェクト、計100棟の施工を目指す計画を立案。『STAPLE HOUSEKOGASAKA』は、その第1号物件となりました」(鈴木氏)

当初は、3棟をつなげたテラスハウス形式で設計を進めたが、仲介会社のアドバイスで3棟を切り離すといった大きな変更も。こうした周囲の意見を設計に取り入れているところも、本物件の特徴といえる。

山本氏は「普段は自分がプロデューサー的役割も兼ねるが、今回は鈴木さんというプロデューサーが加わり、一人よがりにならずに済み、三方よしの結果となった」と言う。例えば、断熱性。広い吹き抜け空間は室温が下がりやすく、冬場は寒さが厳しくなることが想定された。そこで、鈴木氏の意見で東北地方並みの断熱材を加えている。こうしたことも、建築士がC&R社のプロデュース機能を活用するメリットといえる。「C&R社と付き合っていると、普段は得られない業界情報や、経済動向と関連した建築トレンドが聞けるのでためになる」と山本氏は評価する。

本物件の家賃は、周辺相場から2万円ほど高い16万円に設定。3棟が埋まれば約10年、2棟でも約15年でオーナーの投資資金を回収できる利回りを計算した家賃の設定である。「今は、未来が予想しづらい激動の時代です。15年先のことなど、誰にもわかりません。その時になって、修繕するなり建て直すなり、最善策を考えればいいとオーナーには提案しています」

完成直前、「STAPLE HOUSE KOGASAKA」の写真をホームページやSNSで紹介したところ、問い合わせが殺到、すぐに2棟の契約が決定した。もう1棟は、周辺にはないパーティルームとして時間貸ししたり、「STAPLE HOUSE」シリーズのモデルルームとして活用する計画だという。

「数棟を建てる場合、うち1棟をコミュニティスペースにすれば、地域活性化拠点として役立てることもできるでしょう。そんなアイデアを考えることは、地域を大切に考えるオーナーにとって楽しいことなのでは。そもそも建築とは、そこに暮らす人たちの楽しい生活の舞台をカタチにすること。斬新なアイデアをお持ちの建築士の方々、土地の有効活用を検討されているオーナーの方々、ぜひ私たちに相談いただければと思います」(鈴木氏)


物件概要

物件名/STAPLE HOUSE KOGASAKA( ステープル ハウス コガサカ)
所在地/東京都町田市高ヶ坂6丁目
構造/木造2階建て1LDK(3棟)
敷地面積/391.46㎡
延床面積/313.02㎡
竣工/2018年9月

企画/株式会社クリーク・アンド・リバー社
設計/有限会社Kaデザイン 一級建築士事務所
撮影/HIDEKI OOKURA


PROFILE

山本健太郎

1 9 8 7 年、国立宮城工業高等専門学校建築学科卒業後、
三菱製紙株式会社工務部入社。
92年、株式会社淺沼組東京本店設計部入社。
96年、ケンタロー・アーキテクツ設立。
99年、テレデザイン・コラボレーションの設立に参画。
2001年、有限会社Kaテレデザインへ名称変更。
05年、有限会社Kaデザインへ名称変更。
10年より関東学院大学非常勤講師。一級建築士。

クリーク・アンド・リバー社 建築グループ プロデュースチーム

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