【With corona 時代の建築】~コロナショックで建築がこう生まれ変わる~
「命をつなぎ、生きるよろこびを享受できる建築」 佐野 健太

べランディング、なるものが流行っているという。

Stay homeを余儀なくされ、人間たちが太陽の光と空気を求め外に這い出している。我々も動物なのだ。不動産の論理によって隅に追いやられがちだったベランダに人々が再び注目し、床にウッドデッキを敷いたりテーブルセットを引っ張り出したりしながら快適な空間へとカスタマイズしている。いい感じだ。このような傾向が、今回のウイルス感染症拡大を機に広がっていく可能性に私は希望を見出している。

ところで、レム・コールハースによる展覧会『カントリーサイド、ザ・フューチャー』展が今年2月、ニューヨークグッゲンハイムで開催されるやいなや、わずか3週間で休館となってしまった。理由は言わずもがな。過密状態の都市部に対し、郊外や田舎、砂漠や山岳、氷河に海洋など、都市以外の土地に未来の方向性を読み取ろうとする今回の試みは、突然幕を下ろされてしまったことによって皮肉にもその妥当性を証明する結果となった。

土地や建物がいつしか投機の対象となり、カネになる床で現代都市は足の踏み場もないほどに埋め尽くされてしまっていた。Covid-19がその臨界点を目にみえるかたちで示してくれたのかもしれない。

カネにならない床を扱うのは我々アトリエ事務所の得意とするところである(笑)。べランディングのベランダもそうだし、セットバックして設けるポケットパークや光や風を導き入れる吹抜け、お隣さんを慮る高さ設定など枚挙に暇がない。ともすると開発業者たちにとっては余分なものでしかなかったこうしたデザインが、これを機にど真ん中のスタンダードとして認知されていく、という見方は楽観的に過ぎるだろうか。ついつい慣習でいってしまったが、組織対アトリエという構図自体が前時代的なのかもしれない。それは建築の目的が資本と夢とにはっきりと分かれていたビフォアー・コロナ時代のタイポロジーである。

今、必要な建築は、命をつなぎ、みなが生き物として生きるよろこびを享受できる建築なのだ。そして、それを担うのはつまらない系譜などにこだわらず、知恵を絞って協同しあえる建築家たちに他ならない。



佐野 健太

佐野健太建築設計事務所代表
1974年 東京生まれ
1993年 早稲田実業学校高等部卒業
1997年 早稲田大学(地理学)卒業
2002年 東京理科大学(建築学)卒業
2004年 横浜国立大学大学院修士課程(建築学)修了
2004-2015年 伊東豊雄建築設計事務所勤務
2015年 佐野健太建築設計事務所設立

現在 東洋大学、千葉工業大学、
昭和女子大学、明治大学にて非常勤講師


惠生大藥局(台湾) 街に開かれた予防医学のプラットフォームを兼ねている