【With corona 時代の建築】~コロナショックで建築がこう生まれ変わる~
「居場所をつくる医療へ」 秋山 怜史
今回のCOVID-19の感染拡大は、確実にこれからの社会のあり方を変える要因になると思います。社会のあり方が変われば、求められる建築も変わってきます。リモートワークの推進により、オフィスのあり方や住宅のあり方が見直されていくであろうことは、多くの人が来るべき社会として認識したことだと思います。
今までとは異なる人と人の距離感が生まれていくなかで「実際に人と会うこと」の価値や意味が、改めて問われる時代になります。特に、徒歩や自転車でいける距離にどれだけ自分の「居場所」を確保できるか、「居場所」だと思える空間や人間関係があるかということは、豊かさの指標の一つとして確立され、認識されていくことでしょう。
今後、「居場所」の担い手が各地で現れてくると思いますが、その中でも期待されるのは介護や医療の分野です。
私が関わらせていただいている町田市小野路町の「ヨリドコ」プロジェクトは、その好例になるのではないかと思っています。
街道沿いに立っていた民家を改修して進められるこのプロジェクトは、まちだ丘の上病院を運営する一般財団法人ひふみ会が主体となります。訪問看護ステーションを中心に、カフェ、集会場を整備しています。計画をしている時から地域の人たちを巻き込んで、みんなの居場所となれるよう活動をしています。
小野路町は都内でも有数の里山が残る地域であり、江戸時代は大山街道の宿場町として賑わいました。今でもその面影がのこる魅力的な地域ですが、交通の便が良いとはいえず、いわゆる陸の孤島に近いエリアです。高齢化も進んでいますし、新規の移住者も少ない場所ですが、withコロナの時代にあっては、このような地域にこそ光があったってくると思います。
徒歩で行ける場所に、自分が居心地良いと思える「居場所」があれば、人はそこに気軽に訪れることができます。高齢者が多い地域であればなおさら、外に出て地域の人と会える場所は、健康のためにも重要になっていきます。
ウィルスの感染リスクを減らすために、遠くへの移動が制限されたり、憚られる中で、いかに徒歩や自転車という圏内で地域の豊かさを高めていくことができるか。
昨今、社会的処方という言葉がようやく一般的にも語られるようになりましたが、フレイルや病気になって医療や介護が必要になるその前に、地域の「居場所」に来てもらうことで、健康を維持していくことはまさに社会的処方であると考えます。医療の新しいチャレンジとして、withコロナの時代の建築のあり方として、重要な動きになると思います。
秋山 怜史
一級建築士事務所 秋山立花代表。
「社会と人生に新しい選択肢を産みだす」ことを理念に掲げ、平成20年に一級建築士事務所秋山立花を設立。住宅、共同住宅、保育園などの設計活動を行うとともに、社会課題を解決するためのプロジェクトを企画。平成24年、全国で初めてとなるシングルマザー専用シェアハウス「ぺアレンティングホーム」を企画。居住貧困に陥る可能性が高い母子家庭に対し新しい住環境の選択肢を産みだした。その後、全国の母子向けのハウス運営者を支援するために、ポータルサイト「マザーポート」を立ち上げて運営。令和元年からはNPO法人全国ひとり親居住支援機構代表理事。
平成26年から30年横浜国立大学非常勤講師。平成27年から28年神奈川県地方創生推進会議委員。京都市ソーシャルイノベーション研究所フェロー。長野県立大学ソーシャル・イノベーション創出センターアドバイザリーメンバー。