【With corona 時代の建築】~コロナショックで建築がこう生まれ変わる~
「そもそも何も変わっていない」 西倉 美祝
災害は僕たちにこの世界の不確かさを知らしめる。特に、肉眼では捉えることのできないウイルスは、「偶然性」「不安」もしくは「リスク」そのものとして、僕たちの日常を脅かす。
しかしこれらは最近になって突然現れたわけではない。
有史以来、人間社会の外にある「自然」は生命の糧であるとともに、災害として生命を脅かすリスクでもあった。私的領域と呼ばれるかつての家族の領域は、自然の糧とリスクを人間の生命に適した形で取り入れる細胞膜のようなものだった。また、哲学者カンタン・メイヤスーは、僕たちが依拠する世界は本質的に不安定なものであるとし、いつか突然世界がひっくり返ってしまう可能性、つまり「偶然性」こそが、唯一不変の概念であるとしている。
「ウイルス」は最初から僕たちの世界に存在していた。ではなぜ僕たちは、ウイルスのことでこんなにも慌てふためくのだろうか。
近代以降、都市は自然が持つ恩恵やリスクをコントロールできると考え、自然と人間社会の間に見えない、けど強大な「壁」を作った。壁によって「ウイルス」は隠され、僕たちは変わらぬ日常を送ることができた。建築も同様だ。日常と「ウイルス」の間に線を引き、壁を建て、不安のない安定した生活を建築の中で営むことができる。
僕たちは「壁」を絶対的に信頼している。しかし壁は「ウイルス」を消し去ったわけではない。壁はその存在感を隠しているだけで、消し去ったものは「ウイルス」を想像する僕たちの嗅覚だ。
世界は何も変わっていない。変わってしまったのは僕たちだ。「偶然性」「不安」「リスク」としての「ウイルス」を無視する術にのみ長け、それが身近に存在することを忘れてしまっているだけだ。
「ウイルス」は人間社会の外にいる、何者でもない存在だ。だから敵でも味方でもない。もしCOVID-19を敵とみなし排除したと思い込んでも、第二第三の「ウイルス」が列をなして控えている。それならば今こそ、消し去られた嗅覚を取り戻し、生活を変えるチャンスなのかもしれない。
「壁」への盲目的な信頼を捨て、「ウイルス」を始めとした偶然性に、改めて想像力を及ばせたい。
西倉 美祝
建築家 企業の公共性コンサルタント(Club Alt. Publicnes代表)
1988年 生まれ
2015年 東京大学大学院卒業
2015年~2017年 坂茂建築設計在籍
2017年~ MinoryArts(建築・インテリア・家具設計業務)主宰
2017年~ 東京大学大学院博士課程在籍
2018年~ Club Alt. Publicnes(=CAP、企業の公共性コンサルティング業務)代表
SDレビュー2018入選、東京都美術館「生きるための家」展出展など。
現在、雑誌「商店建築」にて「商業空間は公共性を持つか」を連載中。
テーブル:偶然の船
スタートアップ企業のためのシェアオフィスにデザインした家具。様々な機能を持った既製品の家具を集めて、スタートアップ企業を象徴する船の形を作った。各企業と場が成長するごとに少しずつ家具がバラバラになっていき、偶然性の中でそれぞれの役割が発見されるよう設計した。
ウェブサイト: https://t.co/P67Gw3eJ6L?amp=1
ブログ(note):https://note.com/minory_nishikura
連載「商業空間は公共性を持つか」:https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=363